Shinsuke Yonezawa

8thコラム:“ハタチのガメイちゃん” 熟成ボージョレのメタモルフォーゼ

〜 "20 years old Gamay" Metamorphose of Aging Beaujolais 〜

2017年6月6日 更新
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みなさまごきげんよう♪
ガメイ啓蒙活動家のナジャよね です。今回は誰もあまり経験しないボージョレの長期熟成飲みについて。

昔、MWの好々爺、ヒュージョンソンのポケットワインブックのボージョレのムーラナヴァンの項に特記事項として『'76のムーラナヴァンだけは別格。探してでも飲むべし。』というようなことを書かれていたのに じんッ、となってずっと頭の片隅から消えなかったことがありました。

クリュボージョレの中でもムーラナヴァンは熟成に耐え得るということは知識としてありましたが、'80年代も終わろうとしていたその頃、そんなに'76というのは凄いんだ、と。

飲んでみたいなぁと思っても、今でもそうですが、10年以上経ったボージョレなんて市場にないわけです。

それがひょんなことから体験できる日がやって来るのです。しかも、現地で。

とある輸入元のツアーでボージョレを訪れた時のこと。蔵元での試飲がひと通り終わったところ、最後にいかにもヴィンテージなマグナムをカーヴの奥から出して来てくれたのです。

なんとそれが'76のムーラナヴァンだったのです。

ついに!と心が踊りました。

伝説のヴィンテージとの出逢い。

それは、もう香りから圧倒的に妖艶でブルゴーニュのコートドールのグランヴァンの熟成したもののような超セクシーな味わいに変身していたのでした。

若いうちのガメイにあるピチピチの苺を主体としたベリーではなく、ピノノワールの熟成の妖艶。

ガメイを妖艶とは思ったこともない時代、ピノに例えるのはガメイには失礼なのですが、グランヴァンピノのようにメタモルフォーゼしていたのです。

蔵元でいただく絶好のコンディション、しかもマグナムボトルだったのですが、それを差し引いても正直ビビりました。

これが伝説のヴィンテージの凄さかと。

全国から参加した10人ほどのソムリエをオーッとさせたのは言うまでもありません。

ちょうどそのボトルが20年経った'96年のことでした。
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それからは飲みたくともなかなか市場にあらずで追体験できず、悶々とした日々を過ごすことになるのですが、再び'70年代のボージョレを21世紀に入ってゲット。

伝説のヴィンテージでなくとも 聞いたことのないネゴシアンものであっても 色が非常に淡〜い色であっても、それは堪らない妖艶さ全開だったのです。

ウワサで聞いたことのある『熟成ガメイはチョコレートの風味がある♡』というのも目の当たりにしました。

さて、滅多なことでは出物のない熟成ボージョレ。

自分で熟成するしかありません。

若いみなさま、是非ぐっと頑張ってみてはいかがでしょう。

ただ放置するだけですよ。

若いガメイを我慢して置いておくことで辛抱も身につきます(笑)

素晴らしいボージョレと言えば名門ルイジャドが所有して20年を超える、一部ビオディナミ栽培もしているシャトー デ ジャック。

ここの一連のムーラナヴァンを熟成させようと思いながら、ついつい出してしまい残ってないのです。我慢が足りませんね。

どなたか、'76年の再来と言われている'03年ヴィンテージのデ ジャックなどお持ちでないですかね? こちらも全部出しちゃったんですよね。。
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驚愕の品質の'03は20年以上かかるとは思いますが、持っていたらあと6年で20年ですから。

ガマンした暁には至高体験が待ってますよ。

ボージョレ、比較的軽やかな年だと10年くらいで少し変容を魅せてくれるものもあります。

そこからグッと我慢。。すれば変身。生物学的には「変態」と言います。芋虫が蝶に変わるアレですね。
ま、ボージョレをそこまで我慢するあなたも「変態」なわけです(笑)











さてそのみごとな変態を盛り上げる音楽は、ガメイに敬意を表してワーグナーを。
“トリスタンとイゾルデ”。その前奏曲とイゾルデの愛と死。
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このレコードの解説を書いている宇野功芳氏の言葉を引用します。

“徹底した半音階手法と無限旋律の使用によって、決して成就されることのない<愛の無限の憧憬>を表現し尽くしたユニークな作品であり、やがてドイツロマン派を崩壊へと導いて行く無調への萌芽がある。(中略) 性愛の不健康な陶酔と官能、および哀しさがこれほど見事に音楽化された例も少ないに違いない。”

うっふっふー♡、まさに熟成ガメイのピノに対する凌駕を表し、「見事に音楽化された」を「見事にワイン化された」と痴漢、、いや置換して妙ですね。

“トリスタンとイゾルデ”を聴いていてふとルイス ブニュエルの映画「アンダルシアの犬」に効果的に使われていたのを想い浮かべました。
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トリスタン和音、たまりませんねぇ。



反逆児ガメイのエロスの萌芽、熟成の官能と儚さを 貴女もゼヒ☆ゼヒ。


そうそう。これを書いていてもう10年以上も前のことですが、想い出したことが。
倒産した某有名会社社長の芦屋の六麓荘にある邸宅に整理に入ってる方から、ワインが結構あるので鑑定に来てくれないか、と依頼されたことがありました。

半地下のセラーにはほとんど高価なワインは消えていたのですが、そこで発見したのがルロワのボージョレヌーヴォー。なんと泣く子も嬉し泣きに変わる'76だったのです(笑)






2017年6月6日
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尼崎、塚口にある尼崎最古のワインバー・ナジャのオーナー/シェフ/ソムリエ/DJ。