Takuro Koga

16thコラム:仲人失格

~ Matchmaker disqualification ~

2017年12月20日 更新
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車で熊本市のはずれを走っていると、
仲人会だか何だかの立て看板が目に入った。

「必ず結婚できます!」

とデカデカと書いてあり、思わず笑ってしまった。
おいおい「必ず」はないだろう、と。
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マリアージュと言う言葉に辟易する。

ワイン業界では言わずと知れた、
食べ物と飲み物の相性を、結婚に例えたメタファーだが、
考えてもみて欲しい。

そんなに簡単に結婚していいのか?

最初は誰か気の利いたソムリエ(おそらくフランス人だろう)が、お客様に、
「このお料理になら、絶対にこのワインですよ!結婚しちゃうくらい合いますよ!」
って言ったのかも知れない。

そりゃあ、そいつの「すべらない話術」の一つとして使う分にはいいと思う。
ウィットに富んでいる言い回しだったんだと思う。

でもねぇ。。。

その日の料理とワインが結婚するくらい合ってないといけないなんて、
ちょっとハードルが高過ぎるんじゃないか?

なんか、そういうのがワインを、より「難しいもの」にしているんだろう。
まずは、お付き合いくらいから、いや、デートに行くくらいから始めてみないか。

かくいう自分も、
駆け出しの頃は、やっぱり教科書どおりマリアージュってやつを常に意識していた。
ある日、関西を旅行した時の話だ。

ワインと一緒に、炭焼きのうずらを食べさせてくれるお店に食事に行った。

炭火のモクモクの煙と、ド満席のお客でにぎわう店内で、
「こんなんどう?」と、その店の女将が出してきて下さったのはガメイだった。
(詳しく書くと、ジャンフォワヤールのモルゴン コートドピィのʼ06年だった)

僕は、女将にこう聞いた。

「うずらとガメイって合うんですか?」と。

当時の自分が恥ずかしく、半にやけで書いているが、
その時に女将がこんなニュアンスのことを僕に言った。

「そんなん知らんがな。とりあえず試してみたら?
私はワインはこういうのん(ガメイ)が好き。食べ物はこれ(うずら)が好き。
だから両方お店で出してるねん。それだけ。以上!」

僕はバチーン!と頬に平手打ちを喰らったような衝撃を受けた。

もちろんガメイとうずらは合う。
知ってて出してらっしゃるのも当たり前なんだが、
「何をゴチャゴチャ言うとんねん」的な叱咤の一言だったのだ。

そりゃそうだ。

いきなり「結婚してください!」って抱きついてるようなものだ。
不躾な質問だったなぁと思い出しても苦笑する。

なにも、そんな前のめりに結婚しなくてもいいじゃないか。

料理とワイン。

その日、その時間が楽しく過ごせれば、充分なんじゃないのか?
(もちろん、お互いの良さを台無しにする組み合わせは避けた方が良いが)
結婚まで強要してたら、料理もワインも緊張してしまうよなぁ、と。

この料理とこのワインなら、会話が弾みそうだな、仲良くなれそうだな。

それくらいの感じから、始めてみようじゃないか。




2017年12月20日
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Takuro Koga Takuro Koga

‘09年5月、東京・幡ヶ谷でヴァンナチュールと日本ワインを軸にしたワインバーKinasseをOPEN。 ‘16年3月、地元熊本へ戻り、現在はワインショップQuruto店主。ブドウ栽培・醸造、共に見習い。