Shinsuke Yonezawa

17thコラム:年数、値段、そして時間の「数に溺れて」

〜 "Drowning by Numbers" of vintage, pricing and time 〜

2018年1月29日 更新
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なかなか小難しいワインであった。

珍しくブルゴーニュをデカンタージュ。

数本開けられたあとの〆のワインになったのだが、じわじわと終電が迫り来る時間だったこともあり急ぎ飲みになってしまったので輪をかけて開かない。

熟成22歳にもなろうというのに、と思ってもご〜くたまにはこうゆうボトルもある。

開ける前に大丈夫か?(何が大丈夫かはゲストによってほんと千差万別なのだが)と聞かれても答えようがないことが多い。

同年同生産者古酒をバンバン開けている店ではないし、ボトルは一期一会だ。

もっともらしく答えてるソムリエは嘘つき(ハッタリ中とも言う)か、よっぽど古酒の膨大な経験があるか、だ。

古酒をケース単位でストックしているようなレストランならいざ知らず。

古酒相撲となるとソムリエより圧倒的にその趣味を持った愛好家の方が経験値が高くなる。懐具合の違いが、がぶり寄れるか否かのわかりやすい差となることが多い世界だ。

僕は大抵「わかりませんねぇ」と答える頼りなーい店主だが、ただまったく不満足なボトルというのはごく稀だ。

囲んでいるテーブルで隊長ゲストは(ワインが)ピークを過ぎてると呟いているのが漏れ聞こえてきた。同席の江戸から京都に上洛したバーテンダーはグラスの中の少しばかりの時間での良い変化を呟いてくれている。

内心助け舟的にホッとしたのだが、帰り際に隊長ゲストが支払ったこのボトルの値段を聞かれた。2万台のそのワインを高いと思われたのか、私は江戸でシュヴァルブランの70年代を4万台で出してた、とおっしゃる。周りでは20万(ザギン!)の店もあったらしい。20年近く続けられた店だったので、それはいつのことですか?と質問すると少し返答に困られたような間が。。

そりゃそうだろう?それは前世紀か今世紀初頭のことだろうから!

(その頃ウチでは2万台で出してたなー、と言いたいのをググッとガマンして)今夜のブルゴーニュ、ネットで調べてみてくださいね。当店はまだ安い方だと思いますよ、と伝えた。

〈追記 : ついこのあいだの2016年にシュヴァルブランの1986年を4万で出してたぞ、どや!30歳じゃ。〉
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同業(ここでは広い意味での)で他店で値段のことを言うのはよほどでない限り不粋になりがちだが、知識がなければ、その残滓はよりほろ苦い。

カクイウワタシも最近の有名銘柄の高騰は知るとびっくり!なので気をつけねば、なのですが。。

隊長はブルゴーニュ好きのようだったがこのドメーヌはご存知なかったよう。
ワイン愛好家はとかく満足解決が容易でない場合がある。若いワインを出せばまだまだ若いと言い(当たり前だ!若いワインを出してるんだから 笑)、古いワインだともうピークを過ぎてると言ったり(年寄りを愛でる気持ちはないのか?)、20年も経っててもまだまだだ(もうあとはご自分ちで30年40年と寝かしてくれ、店はその頃にはもう無くなっているから)、とか言ったり。好みもさまざまだが、まぁワガママだ。

しかし、そんなこと言ってるとピンポイントにあなたに合うなんてことは、奇跡なのではないか?

だからワインは欠点?を探すのではなく、良いところ見つけてそれを《愛でる》。

そうでなければ楽しくないゾ。

人生と一緒だ。

完璧ではないあなたを愛でるのと一緒。

隊長のお美しいマダムはその術をご存知の素敵な方であった。


翌々日。

時間切れで残されたそのワイン。

デカンタに移して30時間をゆうに過ぎたジョルジュ ミュニレ。
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今朝、ついに透明なバランスを見せじつに美味しい。

なかなか体験できない長尺時間軸変化を経験させてもらうことになったのです。

遅過ぎた22歳の春だった。

(ごめんなさい)、ええとこ ごちそうさま!
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さて、このような悠久(というには大袈裟か)の年月を経てようやく開けたボトルが、まだ開けてからも高みに上るまでの悠久な時間を必要とし、それを楽しむにはラ モンテ ヤングのような瞑想により液状化してゆく器官なき身体の末の至高体験ができる音楽と重ねるとしっくりくるのかもしれない。

https://youtu.be/6ig0q3-hg8E
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あぁーボディレス。。

ドローンの神様。







2018年1月29日
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Shinsuke Yonezawa Shinsuke Yonezawa

尼崎、塚口にある尼崎最古のワインバー・ナジャのオーナー/シェフ/ソムリエ/DJ。