Takuro Koga

21stコラム: バナナ屋に学ぶ熟成させるという役割

〜 Learn from a banana shop who plays a role of "aging" 〜

2018年5月25日 更新
 (10358)

僕の自宅の近所に、面白いお店がある。

バナナの専門店だ。

消費者の嗜好は細分化され、
インターネットを使ったロングテール理論で、 マニアックな商品を専門に扱っていても、商売が充分に成り立つのはわかる。

が、しかし。
そんな時代に店頭小売販売のみで、バナナだけを売っているお店なのだ。

正確にはパイナップルも扱っているが、主力はバナナ。
昭和元年創業の、熟成バナナ専門店。

なんとこのお店には、
バナナを食べ頃になるように追熟させる専用の室(むろ)があるのだ。
食べ頃になるまで一仕事加えたバナナ達が、店頭に並ぶ。

ちなみに一般的なスーパーマーケットに並んでいるバナナが、 いくらくらいの相場なのか知っている人はどれくらいいるだろう?

だいたい5、6本のバナナがついた1房が、 150円~200円弱くらいで販売されているのではないだろうか。

こちらの熟成バナナ専門店のバナナは、その相場の軽く倍はするのだが、 (グラム販売で、変動相場制らしい)

一度こちらのバナナを買って食べると、もう後戻りはできない。
他のお店で買うバナナとは、わけが違う美味しさなのだ。

本当に、今まで食べてきたバナナはいったい何だったんだ?
と思うくらい美味しい。。。

先日も、春から初夏のみ入荷する、 希少な台湾バナナ欲しさに、週に2回も娘とバナナ屋へ通った。

いつも店の前に車が横付けされ、わざわざ遠方から来た人がまとめ買いしていくのに遭遇する。

値段が多少高くても、飛ぶように売れているのだ。

「今日食べるなら、こっちのフィリピン産の方がいいわよ。」
「台湾の方が断然美味しいけど、台湾買うなら出来ればもう1日だけ置いて。」

など、アドバイスもバッチリ。

以前、尊敬する魚屋さんのことをコラムに書いたが、こちらのバナナ屋さんも俄然、僕の尊敬するお店となった。
ところで、最近、飲み頃と思うところまでじっくりと寝かせたワインは、 参考小売価格を無視して、自分で自信を持って値段をつけたいなぁ、と思っている。

特に日本ワインに関しては、リリースからほんの半年待ってあげるだけで、 味が丸くなったりグンと伸びたりするものが多い。

例えば新興ワイナリーは貯蔵スペースやキャッシュフローの問題で頭を抱えているので、 少々早めのリリースは仕方がないと思う。

じゃあ、一体、誰がコストを掛けて、飲み頃になるまで熟成させるのか。 この役割を酒屋が意識的に担い、ワインを「育てて」から販売するイメージだ。

例えばリリース時に参考小売価格3,000円のワインを2~3年瓶熟成させ、 「今なら開けたてから美味しい!」と思ったタイミングで4,000円で売る。

参考小売価格よりも値段を下げて訴求し、新入荷のワインを右から左へインターネットで販売している酒屋の、逆張りを行くのだ。

そんな酒屋があってもいいのではないか。

希少なワインをネットのオークションにかけて値段を吊り上げるのとはわけが違う。

コストをかけて、一仕事加えて、ワインを「育てる」のだ。
実際、スペース代や光熱費で1本あたり月に50円くらいは、 最低でも見えないコストが掛かってるんじゃないかと思う。

もちろん、老舗のワイナリーや、情熱のあるインポーターさんの努力で、 しっかり寝かせて飲み頃になってからリリースされるワインも多いので、 入荷する全てのワインを寝かせるつもりはないし、 そもそも全てのワインを寝かせられるほど、 スペース的かつキャッシュフロー的な余裕は、弱小のQurutoにはないのだが、 一部の造り手のワインに関しては、そういう試みもしていこうかな、と思っている。

消費者に受け容れられるかわからないし、インポーターさんやワイナリーから反対意見を頂戴するかも知れない。

あるいは匿名のレビューで、
「あそこの酒屋はぼったくってる」と書かれるかも知れない。

でも、真面目にやってる酒屋さんほど、 参考小売価格よりも高く値段をつけることを後ろめたく思い、 正直言って、やせ我慢してコスト負担している気がするので、

僕がここで宣言し、
意識的な瓶熟成と、その仕事に対する販売価格のアップを、一部のワインではじめていこうと思う。

自然派かどうかとか、どこの国かとか、値段とか、そういうのを超越して、 「ここで買うワインはハズレがないなぁ。どれも本当に美味しいなぁ」とか、 「今まで飲んできたワインは何だったんだ?」とか、思ってもらいたい。

おそらく、一部の消費者は理解を示してくれるはず。 そうじゃないと、小売業(特に資本力のない酒屋)なんて、Amazonとかに淘汰されるだろう。

ちなみに僕は明日も娘とバナナ屋へ行く約束をしている。
どうせなら、ちょっと高くても、美味しいバナナが食べたいからだ。



2018年5月25日
3 件

このワインをおすすめしている人

Takuro Koga Takuro Koga

‘09年5月、東京・幡ヶ谷でヴァンナチュールと日本ワインを軸にしたワインバーKinasseをOPEN。 ‘16年3月、地元熊本へ戻り、現在はワインショップQuruto店主。ブドウ栽培・醸造、共に見習い。

TOPIC