Takuro Koga

25th コラム:どうして通販しないのか僕なりの矜持のようなもの

Why I don't make online shop, something like my own pride

2020年5月22日 更新
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気がつけば前回コラムを再開すると宣言して、また1年以上が経過していた。。
光陰矢の如しとはよく言ったものだ。

それはさておき、withコロナ時代に突入した2020年5月。

いまこそ書きかけの原稿を仕上げるときだ、
と自分を奮い立たせて、この原稿を書いている。

いや、単純に店番してても、ヒマだからかも知れない。。。

ところで、Qurutoは、 熊本市内に約7坪の店舗を構えている小さなワインショップで、
原則としてウェブサイトでの通信販売、いわゆるECはしていない。

「どうしてこんなインターネット全盛時代に、 ECをやってないんですか?」

という質問を何度もされるので、どうしてなのか、をここに記す。

これはもう、酒屋の存在意義に近い話だと思うのだが、
そもそも酒屋と言うのは、大前提としては、地域密着の商売だろう。
人々は、今晩飲む酒を、夕方近所の酒屋に買いに行く。
それくらいが、ちょうど良いのだと思っている。

僕は多感な時期を過ごした熊本が好きで、
東京のワインバーをたたんで熊本に戻り、
熊本の人達にナチュラルワインを楽しんでもらいたくて酒屋になった。

そういう動機や初心を、忘れたり軽んじてはいけない。

ワインの輸入会社であるインポーターさんや、
日本のワイナリーに一軒ずつ連絡をして、
「熊本の人に知ってもらいたいし、飲んでもらいたいんです」
とお願いをして、ワインを分けてもらう事になり、商売をはじめたのだ。

扱っているワインのうちのほとんどが、
九州外からQurutoへ「どうぞ熊本の方へ!」という気持ちで届けられている。

なので、熊本で消費されるのが本筋だと思う。

シンプルに考えたら、そうなるだけの話だ。

これが、もしもECをやっていたとして、
東京のインポーターさんに送ってもらったワインを、
届いた日に写真を撮ってウェブサイトにアップし、
仮に東京の人がすぐそれをポチって、
翌日、箱に入れて東京に送り返すとなると、
もう何の商売をやっているのか、よくわからない。

フードマイレージ的にもどうなんだ?
東京から送られてきたものを、東京に送り返すとか、送料だけ2回掛かるし。

そんな風にモノをパパッと動かしたいだけなら、
はたまた、すぐに売れてキャッシュに変わるものがいいなら、
何も箱の中身がワインじゃなくてもいいんじゃないか?

右から届いたものを、左に流して、
マージンを得てメシを食ってくのだとすると、それって酒屋必要なのだろうか?
ただの詰め替え作業屋じゃないか。

インポーターやワイナリーが一般消費者に直販をガンガンする時代が来たら、
もう酒屋なんていらなくないか?

卸問屋が消えて中間マージンがカットされる時代。
行き着く先は、小売(リテール)すらもカットされる時代なんじゃないだろうか?
(実際、マーケティング用語ではD to Cとか呼ばれて注目されている)

そういう未来はなんだか味気ないし、
僕は2016年に酒屋になった、後発の新規参入者なので、
諸先輩方が作ってきた(ECの)マーケットをあまり荒らしたくないのもあるし、

売り方に何かしらのポリシーみたいなものもなく、
「資本主義経済なんだもん、値引きしてでもガンガン売って、
自分だけ稼げれば、同業他社や業界の未来なんてどうでもいいぜ」
みたいな感じも、どうも性に合わないので、

できることなら、熊本の人に買って飲んでもらって、メシを食って行きたい。

「これからの酒屋に求められている役割って、じゃあ一体何なんだろう?」
という事を自問自答しながら、お店に立っていたい。

そう言えば、
「随分と山奥のパン屋だか雑貨屋なのに、はるばる買いに行く人が耐えない」
と評判になっていて、講演にも引っ張りだこだったりするお店があるらしく、
「すごいねぇ」と思ってたら、
実は売上の大半はECで稼いでいると知って、
なんだか脱力してしまうと言うか「あ、やっぱそうですか」で終わってしまった。

沢山売ること自体は、全然否定するつもりはない。

EC自体を否定してはいない。 (自分自身も、ECでたまに買い物する)
でも、自分はECを積極的にやる事にはどうにも抵抗がある。

でもでもお前、それで、コロナの波を乗り越えられるのか?

いろんな事が頭をグルグルしたこの数ヶ月。

美しいサッカーがしたいのだ。
泥くさいサッカーがしたいわけじゃない。

そんな理想論だけじゃトップクラスにはなれないかも知れないけど、
誰かの心にずっと刻まれるようなプレーがしたいのだ。


Takuro Koga
2020年5月22日
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Takuro Koga Takuro Koga

‘09年5月、東京・幡ヶ谷でヴァンナチュールと日本ワインを軸にしたワインバーKinasseをOPEN。 ‘16年3月、地元熊本へ戻り、現在はワインショップQuruto店主。ブドウ栽培・醸造、共に見習い。