Takuro Koga

6thコラム:ワインバーについて語るときに僕が語ること

〜 What I Tell When I'm Talking About Wine Bar 〜

2017年5月31日 更新
前回と前々回のコラムで、ワインの楽しみ方について触れたが、 いささか説教がましくなってしまったのではないかと反省している。

今回はもう一歩踏み込んで、 ワインを扱うお店の人が、何を考えているのかについて触れてみたい。

4年前に書いたブログで、 いまだに「あれは良かった」と反響をいただく文章があるので、 今回はそれを転載する。
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2013-05-17 19:47:52

いつもありがとうございます、Kinasse古賀です。

今日はワインバーやグラスワインに対する考え方について書きます。
僕はワインバーの話をする時、よくお寿司屋さんの話をします。 ワインバーは、言うなれば寿司屋だ、と。

寿司ネタって、 新鮮なものよりも、塩をあてたりして熟成させる方が美味しいネタも多いです。 それに、江戸前はネタを切ってただ握るだけでなく、 隠し包丁を入れたりヅケにしたりと、丁寧な仕事が施されていますよね。

他にも、仕入れ先や保存状態、希少性、季節感などなど。。。

僕のやっている仕事は、これに近いんじゃないかなと思うんです、最近。

温度はどれくらいで飲むのがいいのか。
どういう順番で飲むのがいいのか。
どういう形のグラスで飲むのがいいのか。 ボトルを立てて清澄させておくのがいいのか、グラスに注ぐ前にあえて振るのか。

に加えて、グラスワインの場合、 抜栓して何日目がどういう状態なのか、ということに重きを置いています。

毎日、出勤したら冷蔵庫からワインを取り出し、状態をチェックします。
(なので、1本から7杯取りを目指していますが、5杯しか取れないことも多いです。。。) どれくらい瓶内に空気が入っているかで、何日目の状態が良いのかも当然変わってきます。 (なので「このワインは何日目が美味しい」とは一概に言えないのです。。。) 冷蔵庫は温度別に3°C、8°C、12°Cの3台と、常温を使い分けています。

翌日にどうしてもご予約の方に出したいワインがあったとして、 そのワインが抜栓したてはちょっと固くて閉じているものだとしたら、 帰る前に、ボトルを振ってから抜栓し、コルクもしないでキャップシールをそっとかけ、 冷蔵庫に入れずに、常温で放置して帰ったりもします。
そうすると翌日、気難しかった子が、比較的いい子になっていたりするんです。

なんか色々とむずしそうですか? 飲む人は、全然むずしくないです。こちらの勝手なこだわりです。

家でそんなこと、できない?

そりゃそうですね。家で寿司は握りませんよね。

家で食べるなら、ワイワイ言いながらみんなで食べる手巻き寿司とか、 新鮮な刺身を豪快にドカッと乗っけた海鮮丼とかが美味しかったり楽しかったりしますよ ね。

つまり、ワインバーに行くのは、寿司屋に行くようなものなのです。

回転寿司の気軽さがいい日は、ガブ飲み系ワインのお店に行くのもいいでしょう。 そうじゃない、一仕事したお寿司をカウンターでつまみたいような夜は、ワインバーへどうぞ。


寿司つながりで言えば、 以前、NHKのディープ・ピープルという番組で、 三人の寿司職人さんが対談するという企画がありました。

その中で興味深かったのが「おまかせ」で握りを頼まれた時に、
「どういう順番で、何を出すのか」と、その考え方でした。

とある職人さんは「おまかせは、箱根駅伝のイメージで」と仰ってました。
箱根駅伝は2区がエース。 なので、うちもエースのまぐろを2番目に持ってくる、と。 最初に出すと、あとのネタの存在が薄くなり過ぎるし、 後半に出すと、既におなかいっぱいで、味わいが半減したりするから、と。

ちなみに、アンカーにはアナゴを持ってくるのだそうです。

この考え方は本当に衝撃的だったので、よく覚えています。

また別の方は、自分の店は光り物がウリのお店なので、 トップランナーに、ウリである光り物を持ってくる、と仰ってました。 それで、後半に「最初のアレ、もう一つください」とおかわり注文が入ったら、 心の中で「勝った!」と思うのだそうです。面白いですよね。

この番組は「おまかせ」で常連さんにワインを頼まれた際の参考になりました。 その方の好みを知り、気分を訊いた上で、組み立てていきます。

最後に泡を出したり、今日のイチオシを2杯目に持ってきたり(笑)
こんな風にして、7席のカウンターでお客様と向き合っています。

食事メインのレストランじゃなく、マリアージュとか抜きで感動を与えられるような、ワインバーにふさわしいワインって何だろう、とか色々と考えを巡らせながら、 今夜も僕はツケ場に立っています。

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いかがだろうか?

これは僕がワインバーをやっていた頃の話だけれど、 ワインを扱う人には、それぞれのセレクトの基準や考え方があるのだ。

ちなみに僕は、 氷水が入ったクーラーにボトルをドボンと入れておくのが好きではない。 少し目を離した隙に、ワインが冷え過ぎてしまうし、 エチケットがビショビショになってしまう。

忙しいビストロや、グラスチェンジなしのカジュアル店なら仕方がないが、 ワインバーとして、1杯でそれなりの値段を取っているお店には似合わないと思う。

スタンプラリーをやめて、
こんな風に店主の些細なこだわり等を聞くのも、一つの楽しみ方。

さて、今夜はどこに飲みに行こうか?
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2017年4月19日
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Takuro Koga Takuro Koga

‘09年5月、東京・幡ヶ谷でヴァンナチュールと日本ワインを軸にしたワインバーKinasseをOPEN。 ‘16年3月、地元熊本へ戻り、現在はワインショップQuruto店主。ブドウ栽培・醸造、共に見習い。