Ryoji Ohgushi

3rd コラム:マセラシオン・カルボニックって?

What is Maceration Carbonic?

2020年5月17日 更新
「マセラシオン・カルボニックって?」

まず、マセラシオン・カルボニックとはワインの醸造方法の名前です。オーストラリア ではカーボニック・マセレーション(Carbonic Maceration)と呼びます。そして日本ではお馴染みの「ボジョレー・ヌーヴォー」に使われる醸造方法なんです。

ここで少しボジョレー(Beaujolais)の話をさせてください。オーストラリアワインのサイトなんですがマセラシオン・カルボニックを話す上で外せない事なのでちょっとお付き合いください。

まずボジョレーとはフランスのワイン産地の名前で主にガメイ(Gamay)という品種から造られるワインが有名です。世界的に有名なブルゴーニュの南部にあり、リヨンの北側に位置します。

ちなみにボジョレー・ヌーヴォーのヌーヴォーとは新酒という意味です。つまりボジョレー・ヌーヴォーとはボジョレーで造られた新酒のことです。
©️Wine Folly (23023)

フランス全体の地図から見るボジョレーの地図。有名なワインを数多く生み出す世界的な銘醸地であるブルゴーニュ(英語表記の地図なので日本で呼ぶ「Bourgogne」ではなく、英名である「Burgundy」表記になってます。)の南部に位置する。
via ©️Wine Folly
そして、ボジョレーにはナチュラルワインを造るワイナリーが実は結構多いんです。ナチュラルワインの父と呼ばれるマルセル・ラピエール(Marcel Lapierre)もボジョレーの醸造家で、他にも世界中のナチュラルワインメイカーに多大な影響を与える有名な醸造家が数多くいる産地なんです。
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ボジョレーの詳細な地図。北側にブルゴーニュのマコネがある。これだけ多くの地区に分かれていて、それぞれ違う特徴を持つワインを生み出す。
ガメイのワインは基本的にはジューシーでフルーティーなものが多いですが、ボジョレーは地区ごとの特徴も様々でボジョレー・ヌーヴォーのイメージを持って飲むと味わいもしっかりしていて複雑さも持ち合わせているワインも多く個人的にはとても好きな産地です。僕のいるオーストラリアでは近年ナチュラルワイン好きを中心に少しトレンドになっていてこだわりのあるお店を中心に見かけることが多くなりました。

オーストラリアを代表するガメイといえばヴィクトリア州はビーチワースのソレンバーグ(Sorrenberg)です。歴史もあり、ナチュラル好きの間ではとても有名です。そしてナチュラルワインを代表するワイナリーである南オーストラリア州はアデレードヒルズのルーシーマルゴー(Lucy Margaux)やオコタ・バレル(Ochota Barrels)もガメイのワインを造っています。以前はほぼ見ることのなかったオーストラリア産のガメイですが、最近は以前よりも目にすることも増えました。今後も少しずつですが増えていくのではないかと個人的には思っています。


「どんな醸造方法なのか?」
ではマセラシオン・カルボニックとはどういう醸造方法なのか?

簡単に説明してしまうと、タンクにブドウを房ごと潰さずに入れて蓋をして密閉させ、二酸化炭素を満たした状態で発酵させて造る醸造方法です。
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マセラシオン・カルボニックで発酵中のブドウ。これは滋賀県のひとみワイナリーでのもの。
では、もう少し掘り下げてみましょう。

普通のワインはブドウの実を房から外して潰した状態で発酵させます。一方、マセラシオン・カルボニックはブドウは潰さず、房ごとタンクに積まれてその重さでブドウの実が下から自然に潰れゆっくりと発酵を始めます。

そして、蓋をして密閉しているので発酵することによって発生(または注入)した二酸化炭素がタンクの中に充満した状態で発酵していきます。この特殊な発酵環境は独特な香りを生み出すことでも知られています。

そして、タンニンの元となる種の影響も少ないので、フレッシュな果実味がとても際立ち、果皮からの色はちゃんとワインに反映されたとてもジューシーでフレッシュ、色が鮮やかなワインとなるのです。
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ジェントル・フォーク(Gentle Folk)のヴァン・ド・ソファ 2019。おすすめのマセラシオン・カルボニック・ワインの1つ。毎年のようにセパージュが違うワインで2019は、ピノ・ノワールとピノ・グリから造られている。
「オーストラリアでのマセラシオン・カルボニック」
僕の住んでいるオーストラリアでも全体量から見るととても少ないですが、これまでにご紹介したようにマセラシオン・カルボニックを使うワイナリーは意外とあります。特にナチュラル・ワイン・メーカーの間ではピノ・ノワールやシラーズなどで造られたものが多くあり、どちらもとてもジューシーなワインになります。

特にシラーズは本来タンニンがしっかりとしていて、若い時はとても硬いものが多いのですが、この方法で造ると、とても柔らかく飲みやすいワインが出来上がります。中にはボジョレーのようにヌーヴォーという名前を付けたワインもあり早飲みや冷やして飲むことを推奨していてグイグイ飲めるワインとして、近年ではそれを好む人も増えてきました。
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オーストラリアを代表するナチュラル・ワイン・メーカーであるヤウマ(Jauma)のダンビー(Danby)はマセラシオン・カルボニックで造られたワインで原料は100%グルナッシュ。
ほとんどナチュラルワインしか飲まない僕にとって、マセラシオン・カルボニックはとても身近なものなのですが、そうでない方にはほぼボジョレーのイメージしかないかもしれません。
この手法で造られたワインは、結構試すとハマる人が多いので皆さんもぜひこの機会に挑戦してみてください。ボジョレー・ヌーヴォーにいいイメージのなかった方もその考えが変わるかもしれませんよ。



Ryoji Ohgushi
Instagramアカウント:https://www.instagram.com/ryojisydney/

2020年5月17日
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Ryoji Ohgushi Ryoji Ohgushi

オーストラリア・シドニー在住。2004年からオーストラリアの飲食店でキャリアをスタートし、2008年にオーストラリア永住権を取得。現在はオーストラリアの飲食店のワインリスト作成のコンサルティング業務や日本ワインの卸販売を行い、2020年からwiny.tokyoのオーストラリアワインメーカー発掘のサポートを行う。年間約1500種類のワインを試飲!https://mauvewine.com/