Takuro Koga

14thコラム:こうして僕は魚屋になった

〜 Thus I became a fish store 〜

2017年10月19日 更新
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ワインショップQurutoが先日、開店1周年を迎えた。

代々酒屋の家系でもない僕が、焼酎文化が浸透している熊本で、 ワインだけを扱う酒販店をOPENするのに不安がなかったと言えば嘘になる。

どれくらいワインが売れるのかも全くの未知数だったが、
 何より戸惑ったのが、ワインバー(飲食)とワインショップ(小売)の役割の違いだった。

以前、ワインバーを寿司屋に例えてコラムを書いたが、 その比喩をそのまま使うなれば、ワインショップは魚屋のようなものだ。

ナチュラルワインと日本ワイン、
扱うワインはワインバーの時と全く同じなのだが、扱い方が全然違う。

ワインバー時代は、
温度管理や状態管理に気を配り、
グラスの形状、提供順序などを吟味し、 生産者やそのワインにまつわるエピソードをお客様に話しながら、 1杯の価値をどれだけ高められるか、を大切にしていた。

そういえばワインバーKinasseのグラスワインは、 映画1本を見る金額を意識して、高いものは1杯1,800円に設定していた。
しょうもないフィクションの映画を2時間かけて見るくらいなら、 造り手やワインにまつわるノンフィクションの話を聞きながら、 そのワインを30分かけて飲んでもらう方がよっぽど価値がある。
そう信じていたからだ。

が、ワインショップはそれとは全然勝手が違う。
仕入れる本数も違うし、ターゲットもまるで違う。

一番ニーズとして多いのは、 「気軽に家で飲む感じで、2,000円台くらいの何かオススメありますか?」だ。

なので、僕も実際に家で普通に晩御飯を食べながら、何でもない日常の食事に合うワインを探して飲むようになった。
餃子の日もあれば、おでんの日もあり、ホットプレートで焼肉の日もある。

だいたいカミさんと2人で、食事前に抜栓して、一晩で1本飲む。
何ならワイングラスじゃなく、コップみたいなので飲む。
一般の方とほぼ同じシチュエーションを意識して飲んでいる。

瓶の上と下で味が違うのか、温度が上がっても美味しいか、何日くらい持ちそうか、 など、販売する際にアドバイスできそうなところはできるだけチェックしているが、1杯の価値を云々、みたいな飲み方ではなくなってしまった。

そのせいか、最近、ブラインドテイスティングをやっても全然当たらない。
昔はそれなりに当てていたけれど、 それは状態チェックを含め、毎日10種程度を欠かさずテイスティングしていたからだ。
どちらがいいのかわからないが、
ともかく僕は寿司屋を辞めて魚屋になった。
まだまだ魚屋2年目。わからないことだらけだ。
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そういえば僕は熊本に越してからずっと同じ魚屋さんから魚を買っている。
その人の目利きは本当に素晴らしく、そこ以外で買う気に全くならない。
「魚とはこんなに美味しかったのか!」
と思うくらい、本当に何を買っても美味しいのだ。

「これは煮付けがうまか」「酢の物か味噌汁に入れるのがよか」
などアドバイスも完璧。
だから、値段は少々高くても、絶対に別のところでは魚は買わない。

嗚呼、まさにお手本が目の前にいたじゃないか。

こんな風に信頼されるワイン屋に、僕もなりたい。




2017年10月19日
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Takuro Koga Takuro Koga

‘09年5月、東京・幡ヶ谷でヴァンナチュールと日本ワインを軸にしたワインバーKinasseをOPEN。 ‘16年3月、地元熊本へ戻り、現在はワインショップQuruto店主。ブドウ栽培・醸造、共に見習い。