Takuro Koga

23thコラム:監督業としての酒屋

〜 Wine shop as supervision 〜

2018年8月14日 更新
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サッカー日本代表の監督が、森保一さんに決まった。

子供の頃に初めて買ったJリーグチップスに入っていたカードは、確か森保さんだった気がする。
当時の僕はサンフレッチェ広島ではなく、横浜フリューゲルスのファンだったのだが。



たまに、
「ワインバーからワインショップに変わり、何か心境の変化がありましたか?」
と聞かれる。

以前、鮨屋をやめて、魚屋になったというコラムを書いたが、

もう少し別の例えをするなら、
「現役をちょっと早めに引退して、監督やコーチになった気分」
だ。

現役時代、東京という世界でも最高峰のリーグでプレーしていたが、多少のタレント性はあったものの、選手としては結局最後まであまりパッとしなかった方だと思う。

僕は飲食店でアルバイトをした事が一度もない。
つまり、基礎がなかったのだ。

もちろん、そのぶん苦労したし、自分なりに努力もめいっぱいしたけれど、良い指導者のもとで修行した料理人やサービスの人には、独学の個人技だけでは叶わない部分が多かった。

「ボールの扱いは異常に巧いが、サッカーを知らない」選手は伸び悩む。

まさに僕はそんな感じだったんだと思う。
ワインを、飲食業を、知らなかった。

現在は落ち着いて物事を俯瞰してみれる余裕もでき、
指導者の資格を取り、
地元の熊本に戻って監督やコーチっぽい立場で、
現役選手の相談にのったり、
育成に励んでいるような状態、
とでも言えば良いだろうか。

熊本はそもそもナチュラルワインが飲めるお店がまだまだ少なく、一人でも故障しようものなら、大打撃を受けるような選手層の薄さだし、控えめな選手が多く、全国的に名前が知られているようなお店は少ないのだが、磨けば光る、これからの選手がたくさんいて、とてもやりがいがある。

もちろんこれはあくまでメタファーだ。
飲食店さんは僕からワインを買ってくださってる大切なお客様なので、実際のサッカーの監督は選手より立場は上だが、僕はそうじゃないし、監督のような権限はない。
ただ、一緒に成長していきたいので、ワインを売って終わりではなく、食べに行ってアドバイスをしたり、相談に乗ったりする役割ではありたいと思っている。

それから今年は、レコステとウニコゼロが熊本に来てくれた。
このようなワインメーカーの招致も、僕の大切な仕事の一つだ。
僕らの業界でレコステなんて言えば、イニエスタのようなもの。
今冬から来春にかけて、日本ワインの醸造家が来熊してくれる話もチラホラある。

お盆明けから、オリジナルのワインの仕込みも始まる。

秋には南九州最大のナチュランネ熊本というイベントも控えている。

ナチュランネは一昨年から、
他府県の来場者(とりわけ同業者の飲食店・酒販店)が急増した。

「一度、熊本を見たい」
と思ってもらえるのは、素直に嬉しいし、光栄なことだ。

良いチームには良い監督がいる。

それと同じように、
ナチュラルワインが街に根付いているところには、必ず良い酒屋さんがある。

山形の源八。いわきの双兎。仙台のBATONS。
永福町の松坂屋酒店。鎌倉の鈴木屋酒店。
愛知のスールライユ。大阪のフジマル。
広島のハナワイン。福岡のとどろき酒店。

などなど、懇意にさせてもらっている良い酒屋さんだけでも枚挙に暇がない。

おこがましいかも知れないが、
大先輩に学びながら、熊本を少しずつでも伸ばして行きたい。



2018年8月14日
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Takuro Koga Takuro Koga

‘09年5月、東京・幡ヶ谷でヴァンナチュールと日本ワインを軸にしたワインバーKinasseをOPEN。 ‘16年3月、地元熊本へ戻り、現在はワインショップQuruto店主。ブドウ栽培・醸造、共に見習い。