Shinsuke Yonezawa

3rdコラム:家内制手工業的ワイン/ カセットテープ

Cottage System Craft Specific Wine / Cassette Tape

2017年5月31日 更新
カセットテープが今、色めき立ってます。
と言うとそんなレトロ メディアがなぜ今さら?という声が聞こえてきますね。

ぼくが京都に行くと必ず立ち寄るレコードショップ「メディテーションズ」でもカセットの棚がこの数年どんどん増えていくのを目の当たりにしています。

再生できる機器が壊れているにも関わらず、そこに行くとついつい何か魅力的なテープを買ってしまい、、
買っても聴けずじまいなのに。。

ラジカセ(CDのついてない)が欲しいな、と思い電器店に行くのですが、薄っぺらで愛の無さげな物しか売ってないのでした。

そうこうしてるうちに昨秋、ついに入手したのです、ラジカセ。オープンの噂を知ってとても気になっていたお店で。

「waltz」(恵比寿にも同名のこれまた抜群のセンスと個性のワインバーがありますがそことは別)という中目黒の閑静な住宅街にあるネット販売もしないローテクなカセットテープ屋さん。店主の角田さんは、世界席捲通販サイト会社の日本上陸から携わった人なのに不思議だ、と思っていると、その前の経歴がさもありなん、な方でした。二言三言交えるだけでキラリと鋭くこちらのニーズを把握する知識も圧倒なマニアライクワールドにいながら、それを感じさせないやわらかな物腰。まさにトーキョーならでは、の洗練を身に纏った人。

丁寧にレストアされたヴィンテージ ラジカセも店頭販売しているようだと知って、よし、手に入れるぞ!と美品入手を最大の目的とした遠征です。

音とともに一目惚れしたのは『National』の1982年製。
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ナジャのカセットテープ&ラジオ音源ライフのスタートでした。

そうして地元尼崎のFM局を流していると、なんと世界的にも注目されているというカセットテープ専門のレーベルが「福岡」にあるというではありませんか。その「duennダエン」という家内制手工業的な小さなレーベルを主宰している人をテレフォンゲストに迎えレーベルの音を紹介していたのです。

その音は日本のラジオから流れ出ることの滅多にない、ぼくの胸を騒つかせる音響の類いでした。

そして、自分の最近購入していたカセットのコレクションをよくみるとこのあいだwaltzで買ったイクエ モリという人のテープがなんとそのduennレーベルだったのです。
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昨年のナチュラルワインの大規模パーティ、フェスティヴァン九州でも大盛況を見せた福岡、ナチュラルなワインシーンも大阪を遥かに凌ぐエネルギーを感じます。

感度の高い街としてアンテナショップ的な展開なら大阪を飛ばして東京/福岡だったりするのは昔から。パリの靴屋ベルルッティなんかは大阪にできる前に福岡店があったくらいなのです。

なので福岡という街の羨望が、あら またここにも、という感じなのですね。
音楽の感度も輩出しているミュージシャンをみれば昔から高いエリアなのはもちろんなのですが。

なぜぼくがこのイクエ モリという人の音源を手に入れたかというと、'70年代後半に「ノー ニューヨーク」というブライアン イーノがプロデュースした、まさに時代を切り取った史上に残るオムニバスのレコードに収録されたグループ、「DNA」にドラマーとして参加していた人だったからです。
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1978年当時パンクのすでに商業主義的アプローチに嫌気がさしたNY連中のアンチな「ノーウェーヴ」と呼ばれたアンダーグラウンド マンハッタンからのビッグバンは世界に波及し、関西ノーウェーブと繋がっていくのです。
ここでもパンクはスタイルではなくスピリットだ、ということが明確ですね。

そしてこのレコード、アンビエントミュージックの始祖の1人であるイーノの制作ということでじつは、、
最近静かに周辺を賑わしている、選曲家 吉本宏さんのコンパイルした山梨のボーペイサージュのワインをイメージした穏やかな音楽のCDシリーズの源流、ビルエヴァンス〜カルロスアギーレ〜バーブエノスアイレス〜レゾナンスミュージックと、対極の位置にある音とはいえ奥底で繋がっていくのです。(所謂アンビエント、とはニュアンスもジャンル的にも違う音ですが、同じ方向を向いたお隣の小径という感じでしょうか。)

イクエモリのいたグシャリとした実験音塊のDNAのリーダーのアートリンゼイはそのあとブラジル音楽に寄り添っていき、その動向につられてぼくたちもカエターノ ヴェローゾに夢中になりジョアン ジルベルト、アントニオ カルロス ジョビンを知りブラジル音楽が生活になくてはならないものになるのです。

そしてもっと掘り下げてみるとDNAのデビューアルバムは、なんとNYのラテン音楽の奇才プロデューサー、キップ ハンラハンのアメリカン クラーヴェ(ここからリリースされたアルゼンチンタンゴの革命家アストル ピアソラの「タンゴゼロアワー」を頂点とするピアソラ後期三部作がぼくの中でのハンラハンの一番の偉業)でレコーディングされていたのです。

キップといえばキレッキレの思考を持つサックスプレイヤー/コンポーザーである菊地成孔とも交流があり、数年前の思い立って駆けつけたブルーノート東京でのキップ ハンラハンのライブにサックスを持って菊地成孔が飛び入り参加していたのでした。

ずいぶん前に菊地とキップのやりとりでキップがアルゼンチン牛がどれだけ旨いか、を熱く語るのをどこかで読んだことがあるのですが、それ以来トスカーナのキアニーナ牛と双璧らしいアルゼンチン牛に憧れブエノスアイレスで食べたい!と夢想し続けるのでした。
はは。

先日のその菊地のぺぺ トルメント アスカラールの大阪初公演ではピアノに林正樹がメンバーだったわけですが、林さんはこの日曜の満月の日に大阪の教会で自身のソロピアノの公演をその吉本宏さんプロデュースで開催されていたのでした。

はい。このように繋がっていくのです。

ガキガキの無調ギターだったアートリンゼイも今では、ブラジルMPBの御大、わが最愛のカエターノ ヴェローゾやマリーザ モンチのアルバムをプロデュースするまでの重要人物になってすでに久しいのです。

感無量。

どんなことにも多面的要素があるので一面だけを見て理解してるつもりになっていると、ちょっとね、なのです。
二律背反するようにみえることでも奥の奥で繋がってるものなのですね。

モリイクエのようなラップトップを使った今の音をカセットテープで聴きながら、ムーラン名義では凄みのあるトップ ワインもつくるエルヴェ ヴィルマードのいちばんカジュアルな1リットル瓶をグビリと飲るのが好きなんです。
牛のお乳から大人のミルクが出るのです。
まさに家内制手工業的♡
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家内制手工業にビッグバン!は必要なくてもボバンは必要なのですね。

ボバボバボバン!




と、これはコジツケではないの、わかりますか?

ワインはワンセンテンスしかないのかよ、ってお叱りは無用。

音楽は葡萄酒。
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最後に林正樹さんのニューリリースのアルバムを聴きながら、お〜しまい。
ちょっと長くツラツラと固有名詞もわんさかな文章になってしまいましたが、ご興味をもたれた方は各固有名詞をググってみてくださいね。世界がど〜んと拡がって楽しい方向に行くかもしれません。

あなたのポケットから「世界」にすぐ繋がる時代です。

え⁈ ワインの情報/知識の取得だけでせーいっぱいですって?



遊ばなきゃ。

でも次からはもっと軽やかに。

では☆



2017年3月15日
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Shinsuke Yonezawa Shinsuke Yonezawa

尼崎、塚口にある尼崎最古のワインバー・ナジャのオーナー/シェフ/ソムリエ/DJ。